テンカラ釣りとは?
「テンカラ釣り」という釣り方は古くからある日本の渓流釣りですが、「テンカラ釣り」と広く知られることとなったのは昭和40年以降になってからです。それまでは「毛釣り(毛バリ)」「チョンチョン釣り」「すっ飛ばし」「羽根流し」など地方によって呼称が違いました。
そもそも、「テンカラ」という言葉の由来はいまだにわかっておらず、方言から名付けられた説や元来言葉遊びが好きな日本人が十回投げても釣れずに魚籠を空にする「十空(テンカラ)」と名付けられた説などさまざまな諸説があります。
テンカラ釣りは、日本の伝統的な渓流釣り
テンカラという言葉が文献に初めて登場したのは1838年(天保9年)の秋田県角館藩士の釣行記に登場したとされています。それでもすでに180年以上も前のことですが、「毛ばり」が文献に登場するのは1678年(延宝6年)に書かれた「京雀後追」だとされています。
毛ばり自体は紀元前から行われており、古くからある伝統的なロマンあふれる釣行であるとともに、そのシンプルさから初心者でも簡単におこなえると近年ブームになっています。
毛鉤を使って渓流の魚を釣る
欧米のフライフィッシングの針を「毛ばり」と和訳することがありますが、カンテラ釣りはフライフィッシングやルアーと違ってリールは使いません。3メートルほどの釣り竿にラインと毛鉤のみを使用し、魚の食いつきに合わせて釣り上げるとてもシンプルな釣りとなっています。
近年、海外からも注目されている
テンカラ大王とも呼ばれる学者の石垣尚男さんとパタゴニアの創始者であるイヴォン・シュイナードさんとの交流からアメリカにもテンカラ釣りが広まり始め、ほんの短い時間であっても簡単に釣りを行えるシンプルさとテクニックの奥深さに魅了される人々が出てきました。
2007年に同じくテンカラに魅了されたダニエルさんが金融機関でのキャリアを捨てて、「Tenkara USA」というテンカラのサイトを立ち上げテンカラの魅力や道具などの販売を行っています。「カラオケ」と同様にテンカラ釣りもそのまま「TENKARA」と呼ばれ親しまれているそうです。
テンカラ釣りの魅力はここ!
テンカラ釣りの魅力は道具をたくさん揃える必要がないところでしょう。もともと、山間部に暮らす人々の貴重なタンパク質である魚を手に入れるための手段で、量もとれないため場所もあまり他人に知られないようにしていたようです。ですが、シンプルさだけが魅力なわけでありません。テンカラ釣りの魅力を紹介していきます。
初心者が始めやすい
伝統的な渓流釣りと言われると二の足を踏みそうですが、普通の餌釣りやルアーはリールを除外したとしても揃える道具は多岐にわたります。エリアによって最適なタックルが変わりますし、ルアーも種類が豊富で一つのルアーだけでは太刀打ちできません。ですがテンカラ釣りでは釣り竿と釣り糸、毛鉤があれば十分なので初心者にも手軽に始めることができます。
釣りをするフィールドが美しい
テンカラ釣りではヤマメやイワナ、アマゴなど渓流にいる魚を狙います。水のきれいな場所に生息している彼らがターゲットであるため、エリアも絞られてきます。山奥の源流に近く、透き通った水質に苔むした岩肌はとても美しく神秘的です。登山やキャンプなどで美しい渓流に触れ、テンカラ釣りにはまる人もいます。
やればやるほど奥深い
シンプルさが魅力のテンカラ釣りですが、やればやるほど奥深い釣行であると気づくでしょう。キャストや食い合わせのテクニックはもちろん、魚がどこにいるのかどうすれば気づかれずに動けるのかなど、魚ではなく自然と相対することを学ぶこととなります。また毛鉤など自作が可能で、自らが作り上げたもので釣り上げることが出来たときの達成感はひとしおでしょう。
テンカラ釣りのマナーについて
初心者でも気軽に始められるテンカラ釣りですが、人の気配に敏感な魚を狙うこともあり釣り人のマナーが求められます。知らずに行ったことで相手の気分を害したり、怒られてしまわないようにしましょう。
釣り人として当然のマナー
渓流釣りに限らずどの場所でも当然ですが、ごみを放置していかないことです。心無い、極々僅かな人の行いが視界には大変大きく映ってしまいます。テグス一本ぐらい、タバコの吸い殻一本ぐらい、空き缶ぐらいと思ってもそれは誤魔化しきれない存在感を放ってしまいます。
渓流釣りは下流側から上流側へ
渓流釣りは釣り上がることが暗黙のルールとなっています。これは下流から上流へと釣り場を変えていくことを意味します。テンカラ釣りは魚がいるところにキャスティングして、いないと思えばすぐに移動する展開の速い釣りなので、下から上へと場所を移動しながら魚を探します。逆向きに移動してしまうと、他の釣り人と合流してしまうことになり、敏感な魚はすぐに逃げてしまうでしょう。
沢に先行している人を優先
一つの沢にすでに誰かがいる場合。先行者優先が昔からある暗黙のルールです。先行者のすぐそばの上流で釣りを始めてはいけません。「頭を切る」と言われていて、下流から移動していく釣りなのにいきなり進行方向に横入されてしまえばマナー違反と捉えられてしまいます。
また先行者優先とはいえ無用なトラブルを避けるために「沢割り」という川を分け合いましょうという言葉もあります。釣り人同士声をかけあって気持ちよく釣りを楽しみましょう。釣り人同士の間隔は1km以上が望ましく、人が近くにいるほど魚は釣りにくくなっていきます。餌釣りやルアーフィッシングをしている方を追い越す際は沢から一旦離れてから、再度入渓しましょう。
テンカラ釣りのキャスティングは後方注意
テンカラ釣りのキャスティングは後ろに反動をつけるので、思った以上に後ろの上方向に毛鉤が飛んでいきます。キャスト時の後方確認はどの釣りでも必須ですが、周囲に人がいないかの確認以外にも木々に当たらないかも注意して行いましょう。
どんな魚がテンカラで釣れるの?
テンカラ釣りで一般的に対象となるのが渓流魚です。ここでは有名な「イワナ」「ヤマメ」「ニジマス」の特徴や生態などを説明していきます。渓流釣りは産卵期から育成期間は禁漁とされ、地域によって3~9月の間で釣りを楽しむことができます。
一番人気の「イワナ」
サケ目サケ科イワナ属
サケ目サケ科イワナ属の魚であるイワナはサケの仲間であるため成長過程で海に降りるが、日本のイワナのほとんどは淡水で一生を過ごします。これは冷水環境を好むイワナ類の特徴から、イワナが生息する地域のなかで最も緯度の低い温暖な地域に生息するため、暖かい海には向かわず源流付近にとどまります。日本のイワナで海へと向かうのは北陸地方以北の北海道産のイワナなどがあります。
特徴
肉食性で河川に生息するものや落ちてくる虫やカエル、蛇などを捕食します。産卵期は10~1月で本流に流入する支流を産卵床にすることが多いです。2年目以降に20㎝前後まで成長し数年にわたって繁殖行動を行います。
地域によって差はありますが、背中側が緑褐色や灰色で側面に白い斑点模様があります。厳冬期のイワナは体色が黒ずんでおり、これを釣り人は「さび」と呼んでいます。暖かくなり活発に動き始めると「さび」は自然と消えていきます。
さらに詳しいイワナの特徴や生態についてはこちらの記事をご覧ください。
渓流の女王「ヤマメ」
サケ目サケ科サケ亜科タイヘイヨウサケ属ヤマメ
サケ目サケ科のサクラマスの中で、海に降りることなく一生を河川で過ごす魚です。水温の低い場所を好むイワナとは棲み分けが出来ており、イワナの生息地の下流に棲んでいます。
ただ気温や天候の変化によってイワナと交配してしまう例があり、それを「カワサバ」と呼んでいます。ヤマメもイワナ同様に地域差のある魚ですが養殖繁殖魚を放流しているおかげで純粋な地域型個体が残っている河川はとても少なくなっています。またアマゴの生息地域にも放流されたためアマゴの数が減ったり交雑してしまう例が出ています。
特徴
警戒心の強いヤマメは餌を追いかけて食べられるか判断してから捕食します。イワナが棲み処からあまり離れず近づいた獲物を狙うのと違い、獲物を下流の方向へと追いかけていくので再度キャスティングする時に最初と同じ場所ではヤマメはいません。
側面に木の葉や小判上の斑紋模様があるのが特徴で30~40㎝を超えるとサクラマスのような銀色に変わります。
迫力ある「ニジマス」
サケ目サケ科サケ亜科タイヘイヨウサケ属ニジマス
日本では北海道の一部に定着していますがニジマスは外来種で原産地は太平洋東岸とカムチャッカ半島。そのほかは放流魚となっています。ニジマスもサケ目なので海に降りますが淡水で一生を終えるものを体の模様から「レインボートラウト」と呼び、海に降りるものを「スチールヘッド」と呼びます。
特徴
イワナやヤマメよりも大きく成長するため引きが強いのが特徴です。流れ込みなど流れの強い水温の低い場所を好みます。河川では40㎝前後まで成長しますが湖に棲むものは80~100㎝ほどまで成長します。体側に赤い帯があり斑文がはっきりとしています。白っぽくなっているニジマスは古いです。
テンカラ釣りの竿と仕掛けは?
テンカラ釣りの仕掛けはとてもシンプルです。しかしシンプルながらもそれぞれに特徴があるので、一つ一つ丁寧に紹介していきます。