ことの発端は02年の5月6日、夜の11時過ぎのことです。電子匿名掲示板サイト「2ちゃんねる(現、5ちゃんねる)」のペット大嫌い板という名の掲示板に、「おい!おまえら」とのタイトルでスレッドが立てられました。
スレッドを立てたのは「ディルレヴァンガー」というハンドルネームを使う松原被告でした。彼はそこでまず、「キャリアを捕まえたから、画像のアップローダーを教えろ」という旨の書き込みをします。「キャリア」とは猫のことであると、そのすぐ後にわかります。次に彼が見せた画像には、バスタブに閉じ込めた猫が写っていたからです。
ペット大嫌い板
後に「生き物苦手板」と名前を変えるこの場所は、もともとはペット関連の板から、マナーの悪い飼い主への批判を遠ざけるために作られたものでした。生き物が苦手な人や、飼い主のマナーに物申したい人が集まる場でしたが、やがて、生き物に対する暴力行為をほのめかしたり、虐待をしたいという衝動を表現する場へと性格が変わっていきました。
オスカール・ディルレヴァンガー
ネット上で松原被告が使ったハンドルネームの、元となったと思われる実在の人間です。ナチス・ドイツにおける武装親衛隊の将官で、犯罪者を兵隊化した部隊を率いました。暴力的な言動や異常な性癖とそれらに基づく不祥事により、内外から忌み嫌われたと言われています。
虐待方法を募る松原被告
スレッドを立ち上げ、捕まえた猫の画像を公開したこの投稿者は、生き物を嫌悪する人間の集う空間で、このあとどのように痛めつけようかと問い始めます。「とりあえず尻尾と4つ足、どれからいく?」「次はどこ?足でも耳でも目でもいいぞ」
そして、この常軌を逸した問いかけに対する答えもまた、おぞましいものでした。「ノコギリ系のほうが苦痛が多いと思うのだが」「切断した部品を食わせてやれ」この時のスレッド内の雰囲気は異常なものになっていました。
虐待の画像を次々と添付!最後の画像は…
煽り立てられた通り、残忍な暴力は実行されました。その実行者である投稿主は一連の様子をデジカメで撮り、それをネット上に上げては、次はどのように痛めつけようかと問いかけることを繰り返します。最初に上げられたのバスタブに入れた猫の写真に続き、公開された画像には以下のようなものが写されていました。
上げられた画像の内容
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紐で吊るされている猫。
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しっぽを切断した後の様子。
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耳を切り取った後の様子。
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バスタブの中でぐったりとしてしまっている猫。
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吊るされた猫と、「私は敗北主義者です」とペンで書かれたCD。
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横たわる猫と、「世界と斗う黒ムツ諸兄に捧ぐオスカル・ディル」とペンで書かれた紙。
惨劇の夜の終わり
7枚目の画像をネットに投稿した後、この虐待ショーの開催者は、死んでしまった猫を川に捨てに行きました。6日の夜に始まった書き込みは、7日の朝まで続きました。何の罪もない命に対する凄惨な仕打ちは、実に4時間にわたったと言われています。
2ちゃんの特定班が動いた!こげんた事件の犯人を見つけられるか?
当時、ペット大嫌い板に集い、件のスレッドに書き込みをする人間のほとんどは、投稿者が実行する残虐な行為を面白がり、煽り立てて楽しんでいました。中には、「やめろ」「許されることではない」などとたしなめる意見もありましたが、そのような書き込みの方が荒らし扱いをされるという、異常な状況でした。
しかし、巨大掲示板サイトである2ちゃんの利用者全体から見れば、このような蛮行を許容する人間の方がマイノリティなのは言うまでもありません。2ちゃん内の他のコミュニティに属している人々は、一晩に渡り残虐なショーが行われていたことを知るや、一斉に非難しました。今でいうところの炎上です。
2ちゃんねらー
2ちゃんねるを頻繁に利用する人々は、このように呼ばれていました。2ちゃんは、当時の電子掲示板サイトとしては、日本最大級を誇っていました。その利用者数は事件翌年の2003年時点で700万人以上。彼らは、その人員、人材の多さと、ある種の帰属意識に基づいた結託力により、時として爆発的なマンパワーを発揮します。
普段は、匿名の場ゆえに、羽目を外した言動の多い2ちゃんねらー達ですが、今回の件に関しては、彼らの多くが正義感に突き動かされて行動しました。公開殺害の投稿者は期せずして、巨大コミュニティサイトに集まる大勢の人間を敵に回してしまったのです。
特定班によるログ解析と通報
2ちゃんねらーの中には、情報収集や解析の技術を持て余している人間が多くいました。特に、ネット上から個人を特定するような情報を抽出する人たちは「特定班」と呼ばれます。特定班は投稿者の書き込みのログや画像を解析し、数日の内にその正体を突き止めました。そして、サイト利用者たちによる通報が殺到することとなるのです。
ついに書類送検へ
ネットユーザー達のこうした行動により、福岡県警と警視庁が動き出します。その結果、ついに松原潤被告が動物愛護法違反の容疑で書類送検されます。犯行が行われた日から16日後、5月22日のことです。
しかし事実無根を訴える被告…
彼にかけられた容疑は、野良猫を捕まえ、紐で首を縛ったり、ハサミで耳やしっぽを切断するなどして痛めつけたとするものです。しかし、警察の取り調べに際して、被告は「殺さずに逃がした」「ハサミや紐は引っ越しに使うため買った」などと言い逃れをします。
さらに、「かわいく思って連れ帰ったが、浴槽に糞をしてカッとなった」「酔っていた」「目立とうとおもって画像を上げたが、思った以上に反響が大きかった」と弁解のような供述をし、世間からさらなる不信を買っていきました。
大きくなる世間の声!こげんた事件の署名運動まで!
この忌まわしい犯行の実行者を糾弾する熱は、もはや一つの掲示板サイト内にとどまりません。その熱は動物愛護団体や他のウェブサイト、マスメディアにも波及していきます。そして、事件に注目する人々内の多くは、事実無根を訴える被告に対して、必ず相応の報いが与えられなければならないと思い、行動をしました。