まだ、朝廷・天皇の力が全国に及んでいなかった上古の日本において、朝廷に従わなかった土豪達を指す名称が土蜘蛛の原型です。覇権を握りつつある大勢力からの侮蔑と、小勢力からの恨みが形となったのが、この蜘蛛の妖怪なのです。
蜘蛛の妖怪として有名なものは、土蜘蛛の他に「女郎蜘蛛」「牛鬼」がいます。以下で紹介していますので、興味のある方は是非ご覧ください。
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乙事主のような猪は実在した!?
この物語に登場する巨大な生き物達は、想像の産物に過ぎないと言えるのでしょうか?実は、乙事主ほどとは言わないまでも、若い猪神ぐらいの大きさの猪は、実際に見つかって捕獲されているのです。
ロシアで巨大猪が捕獲されている
2015年のロシアでのニュースです。チェリャビンスク市の猟師ピーター・マキシモフさんは、ウラル山脈の森に大きな猪がいるという情報を得て、捕獲に向かいます。仕留めたその猪は、体重535キログラム、体高1.7メートルもあるものでした。一般的なオスの熊の体重が400キログラムほどですので、この猪がいかに巨大かがわかります。
氷河期が終わったあとに取り残された種?
「そこでは獣はみな大きく、太古のままに生きていた」というのはシシガミの森の説明です。氷河時代やそれ以前に生息していた大型の哺乳類の一部が、『もののけ姫』の時代(戦国時代ごろ)には、まだ絶滅せずに生き残っていたとも想像させる一文です。
それらの種は、氷河期に陸続きだった大陸から日本に移り住み、氷河期が終わると日本列島に取り残されたとも考えれれます。いずれにせよ、上記のニュースのように『もののけ姫』に登場するような巨大な猪は、現代においても世界各地で目撃されたり、捕獲されたりしているのです。
ちょっとツッコミたくなる乙事主とアシタカのやり取り
『もののけ姫』には、視聴者が思わずツッコミを入れたくなるような場面が、ところどころ見受けられます。有名なものとしては、アシタカが婚約者であるカヤから貰った玉の小刀を、あっさりとサンにあげてしまう場面などがあります。森で、アシタカが乙事主と邂逅したシーンにも、違和感のある行動がありました。
ナゴの守の最期を伝えたいと「左手」を差し出すアシタカだが…
乙事主は匂いを嗅いだだけで、驚くほど多くの情報を得ることができるようです。それにしても、呪いを受けた右手を差し出した方が、彼の最期を伝えやすかったのではないでしょうか。「そこは、右手じゃないの?」と、思わずツッコミたくなるシーンです。
「乙事主」と「トトロ」の意外な共通点!「トトロ」は古代の神だった
『もののけ姫』と『となりのトトロ』は、同じ監督の作品ではありますが、全く異なる世界観の話と多くの人は思うでしょう。しかし実は、この二つの物語は、共に宮崎監督のある一つの思想に基づいて形作られた世界の物語なのです。
そして、乙事主とトトロという、一見して全く異なる二つのキャラクターは、監督の思想の中では同じ位置づけにある存在と言われています。
日本はかつて巨大な森におおわれていた
2万年前から1万年前の地球は海面が低く、日本は大陸と陸続きでした。広大な大地の一部であるその時代の日本は、深い森林におおわれており、そこには巨大で力の強い神々が住んでいたというのが、宮崎監督の考えです。
ところが、海面上昇や火山活動、そして稲作を始めた弥生人による森の伐採のために、太古からの広大な森はなくなっていきます。森に住む強大な神々は、次第に居場所を失っていったのです。
トトロは人類と戦って滅ぼされた種族である
宮崎監督の盟友である鈴木敏夫プロデューサーは、監督の考えとしてこのようなことを述べています。「かつてこの世には、たくさんのトトロ族がいたが、人類との戦いに敗れて滅ぼされた。その生き残りが”もののけ”や”トトロ”である」
「わしの一族を見ろ!みんな小さくバカになりつつある」という乙事主のセリフのとおり、神々は森を失って力が弱まり、人間との生存争いに敗れていきます。トトロとは、『もののけ姫』の時代における乙事主のような存在の生き残りであり、なれの果てだと言えるのです。
乙事主の声優は名俳優の森繁久彌さん
乙事主の声と演技は、重厚で深みがあり、威厳を感じつつも衰えのような雰囲気も醸し出しています。まさにこのキャラクターを表現するのに相応しい演技だと言えますが、いったい声優を務めたのはどのような人なのでしょうか?宮崎監督が抜擢したその人物とは、森繁久彌さん。大御所の名俳優です。
森繁久彌さんのプロフィール
1913年に生まれ、1936年に東京宝塚歌劇団に入団して以降、『夫婦善哉』(1955)『恍惚の人』(1973)などの映画、『七人の孫』『ドラマ・人間模様 赤サギ』などのテレビドラマ、『佐渡島他吉の生涯』『屋根の上のバイオリン弾き』などの舞台やラジオドラマなどで、演技派俳優として幅広く活躍しました。
乙事主を演じた当時は84歳という高齢でありながら、迫力のある演技を披露します。生前は菊池寛賞や勲二等瑞宝章、文化勲章といった栄誉ある賞を受賞し、2009年に享年96歳で亡くなった後は、国民栄誉賞を授与されました。
声優としての出演策
日本で最初のカラー長編アニメ映画である『白蛇伝』(1958)で声優を務めて以降、『風が吹くとき』(1987)『せんぼんまつばら 川と生きる少年たち』(1992)『ヘラクレス』(1997)『どんぐりの家』(1997)『ドラえもん‐のび太と翼の勇者たち』(2001)で声の出演をしています。
英語版はキース・デイヴィッド
『もののけ姫』はスタジオジブリがウォルト・ディズニーと提携して初めて出資を受けた作品です。英語吹き替え版では、乙事主役として、ディズニーアニメの『ガーゴイルズ』でナレーションを務めた、キース・デイヴィッドが起用されました。彼は、『遊星からの物体X』(1982)や『プラトーン』(1986)などに出演した名俳優です。
ちなみに、海外版での乙事主の名前はOkkotoとなっています。Okkotonushiではアメリカ人には発音しづらく、覚えにくいだろうという配慮があったようです。
2019年亥年ということで乙事主の年賀状も
乙事主は今や、猪のキャラクターの代表格と言えます。そのため、亥年の年賀状を飾る絵のモチーフとして、乙事主が採用されることは珍しくありません。映画の公開から20年以上たった2019年の年賀状でも、乙事主さまは大活躍しています。
手書きのイラストで描かれる
亥年の2019年。多くの人が乙事主の勇姿を年賀状に描きました。新しい年に向かっていく、力強い姿勢をうかがい知ることができます。
咆哮する乙事主の絵からは、どんな困難も跳ねのけようという気概が感じられます。「猪突猛進」「粉骨砕身」という言葉が浮かぶようです。
悠然と佇むその姿からは、威風堂々として何事にも動じず、覚悟や信念をもって未来を見据えるような一年にしようという、決意を感じるようです。
乙事主は救われたのか?
太古から存在する力のある神々。その生き残りである乙事主は、人間と神との最後の戦いに挑むため、九州からはるばる中国地方へ進軍してきました。その結果、人間に敗れ、理不尽な死に恐怖し、彼はタタリ神になりかけます。しかし最期は、生と死を司るシシ神の力により、死を迎えるのです。
壮絶な最期を遂げた彼は、果たして救われたと言えるのでしょうか。もし、シシ神が命を奪ったことがせめてもの救いだったのだとしたら、それは、かつて恋仲にあったモロが、シシ神に願ったことだったのかもしれません。
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