邪視とは?
よこしま、ねじれた心、正しくない行いという意味の「邪」という字を持あてられた、邪視。それは魔の力を秘めたまなざしのことであり、ただ相手を「見つめる」だけで呪いをかけ、不幸をもたらすことができるのだと伝えられています。
ではまずはじめに、この呪いに関する基本的な知識を学んでいきましょう。
邪視の概要
まずはどういった呪いなのか、誰を対象とし、どんな呪いがかかるのかという概要から始めましょう。
そして呪いをかけられた者は、災いをもたらされるだけでなく、いわれのない中傷に苦しむという二次的被害も受けることになるのです。
古くから世界各地に存在している呪いの伝承
伝えられた国によって呪いのかかり方に差があるものの、狙われるのは「嫉妬される存在」であるといわれています。
富を持つ者、美しい者、目立つ者。幼子などかよわい存在から狙われやすく、また人だけでなく財産そのものや、動植物、建物に至るまで呪いの対象となるのです。
邪視の呼び方は世界で色々ある
この眼にはさまざまな呼び方が存在します。魔眼、邪眼、イビルアイ(邪悪なまなざし)などたくさんの名前がつけられましたが、どれも「災厄を招く」という意味が込められたものばかりです。
呼び方ひとつで、どの国でも忌むべきである、呪いの眼として扱われてきたことが分かります。
邪視は加害者ではなく被害者が悪いとされる
この呪いの特徴は、他の呪術と違って「呪いを受けた方に非がある」とされる点です。呪いに見つかるだけの理由を持つあなたに責任がある、といった考え方をされるものでした。
理不尽な反面、誰もが心のどこかでしかたがないと考えたからこそ、邪眼は世界中に広まっていったのでしょう。なお以下の記事には呪い返しの方法も特集されています。
世界の邪視の概念
ではここからは、世界各国における邪呪の概念について解説していきましょう。
瞳、まなざしは基本的に誰もが持っているものであり、だからこそ、誰から呪いを受けるか分からないという不安が、この概念を世界中に広めていった要因でしょう。
世界の邪視の概念①中東
まず、発祥の期限とされているのが中東エリアです。羨ましい、妬ましいといったよこしまな気持ちの視線は、見つめられた人(時には家畜や物)を損ない、不幸にするという考え方が今も強く根付いています。
そのため無暗な賛辞を嫌がる風潮があったり、呪い除けのお守りを備えて狙われないよう用心しています。
世界の邪視の概念②南ヨーロッパと中東
中東から南ヨーロッパにかかる地域には、青い瞳の人間は魔力を持っているという考えがありました。
このエリアに住む人種の多くは黒~暗褐色の瞳であったため、希少であった碧眼に特別な意味を見出したのです。青い眼は本人が意図しなくとも呪いを放つと言い伝えられています。
世界の邪視の概念③アラブ
アラブにおいても嫉妬と呪いは表裏一体のため、アラブ人に賛辞を贈る時は細心の注意を払わなくてはなりません。
彼らを褒めるたいのであれば必ず「マーシャーアッラー」のフレーズを挟むようにしましょう。これは”神がそう望まれた”という意味で、相手に対し呪いをかけるつもりはないというアピールになるのです。
世界の邪視の概念④古代イスラエル
古代イスラエルにおいては聖職者だけがこの呪いを使用できる、という考え方でした。人間の不均衡を見抜くのは、選ばれし立場の者だけに許された特別な能力でした。
古代の国が消え久しい時が過ぎましたが、現在でも呪いを防ぐためのお守りは広く一般に浸透しています。
世界の邪視の概念⑤エジプト
エジプトの民族・アムハラ族も上記の古代イスラエルと似ていて、限定されたカーストの人間だけが呪いの眼を持つとされています。
このように呪術者として定められる理由が、個人の特性ではなく、所属している地位・団体によって選ばれる地域は、他にもいくつか確認されています。
世界の邪視の概念⑥南アジア
南アジアにおいては人間以外にも、蛇をはじめとした動物たちも魔力を持つと考えられていました。
これらから呪いを防ぐためには、赤色の布や装飾品を身につけるべきと考えられています。赤い色は生命エネルギーの象徴であり、厄を払うという考え方は日本にも存在します。
世界の邪視の概念⑦中央アメリカ
一方、中米に伝わるパターンはやや特殊で、呪術者は妊婦・または山歩きから帰った後の男性であるとされています。
この伝承を残す民族メスティーソは、16世紀スペイン人と先住民の混血です。つまり、先祖の血や文化と共に、邪視の概念も南ヨーロッパから海を渡ってやってきたものなのです。
世界の邪視から身を守るお守り
その概念が多くの国で共通点を持つように、各地ごとに呪いを防ぐためのアイテムが発達することになりました。それでは今度は、地域ごとに生み出されてきたお守り、その形状と扱われ方についてお教えしていきましょう。
中にはインテリアやアクセサリーとしてすでに日本に浸透しているものもあります。
邪視のお守り①トルコの「ナザール」
呪いをはねのけ、災いから身を守る効果があるという、トルコのナザール・ボンジュウという青いガラス細工のお守りです。
壁や窓などに吊り下げたり、アクセサリーやキーホルダーとして身に着けてもよいとされています。見た目にも美しいため、日本ではインテリア雑貨として販売されていることも。
邪視のお守り②中東の「ファーティマの手」
ミリアムの手とも呼ばれていますが、ハムサと言った方がよく通じるでしょう。イスラム開祖の愛娘の手がモチーフであり、中央のシンボルは目以外にも星(ユダヤ教)や魚(キリスト教)などが存在します。
地域によっては魔除け以外にも、豊穣や繁栄のシンボルとして重宝されることがあります。
邪視のお守り③エジプトの「ホルスの目」
古代エジプト神話に登場する天空の神・ホルスの両目は、月と太陽を象徴するとされてきました。邪悪から身を守ってくれるだけでなく、人々にあらゆる良いものをもたらしてくれるシンボルです。
一説によると、フリーメーソンのマークはこのホルスの目がモチーフにされているということです。
邪視のお守り④ドイツの「護符」
ドイツでベゼル・ブリックと呼ばれるこの呪いを、タリスマン(護符)で防ごうとしてきました。
こうしたタリスマンの類は、指輪やコインに刻んで身に着ける・刺繍して壁に飾るなどの他に、コピープリントを飾ってもそれなりに効果が得られるという説があります。ドイツから直輸入できない場合、印刷という手段での対応も可能ということです。
邪視のお守り⑤ブラジルの「マノ・フィコのチャーム」
古代ローマやかつての日本で、男性器に破邪の力があるとされたように、ブラジルにも同じ発想がありました。伸ばした親指を握りこぶしからつき出すサイン、マノ・フィコは男性器を象徴しており、この形のチャームには呪いをはねのけ、幸運を寄せる力があるとされています。現代においてもアクセサリーなどとして広く愛されるアイテムです。
邪視のお守り⑥日本の「かご細工の飾り」
日本にも鬼や邪の眼を忌諱する風習があります。たとえば節分に使う豆や、柊の棘のある葉は鬼の目を潰すために、イワシは鬼を「お前の目もこうやって潰すぞ」と脅すために用意されていました。
また籠を飾る地域もありますが、これはかぶることで鬼の目線を惑わすことができるアイテムです。
世界の邪視から身を守るジェスチャー
装備するアイテムや護符のほかにも、人々は儀式的な意味を込めたしぐさで魔を避けてきました。これは身を守り清めるほか、不安で落ち着かない精神を安定させる自己暗示効果もあります。
たとえば日本における「エンガチョ」であったり、下記の特集に登場するような「狐の窓」のようなものです。
邪視から身を守るジェスチャー①祈りを捧げる
世界各地でもっとも広く分布しているのは、祈りの動作です。十字を切る、掌を合わせる、跪いて頭を下げる。進行している宗教や土着の文化ごとに差はあるものの、自分より強く大きな存在から加護を願います。
信仰の心は不安を鎮め、呪いがつけ入る隙をなくしてくれるのです。
邪視から身を守るジェスチャー②唾を吐く
また唾をペッと吐くことも有効とされています。日本を含め、唾液には退魔の力があるとみなす国は世界中に存在します。
一説によると、昔の人々は唾液に殺菌・抗菌作用があることを経験則から知っていたため、良いものと捉えていたからではないか、ということです。
邪視から身を守るジェスチャー③コルナ、マノ・フィコ
ヘビメタやプロレスでよく見かける動作ですが、悲運や悪霊を払う効果があるとされています。
なお形がよく似ているため、米国の手話における「愛してる」のサインや、ハワイのピース(挨拶)サイン・シャカとよく誤用されますが、どちらもまったく違うものです。
邪視を持つとされ神話に登場する神様
瞳に魔力を持つ存在は、あらゆる神話・伝承・物語に登場します。ここからは、特別なまなざしを持つ怪物や天使を紹介していきましょう。
その中には誰もが知っているあの世界的ファンタジー小説もあります。映画化もされているので映像として確認することもできます。