「黄色い救急車」とは
「黄色い救急車」とは、主に子どもの間で噂される都市伝説です。この噂は全国各地に広まっていますが、都市伝説やオカルト関係の本に載ることが少ないため、現実に存在していると信じたまま大人になる人も多いようです。
頭がおかしい人を精神病院に連れて行くという都市伝説
『「黄色い救急車」が現れて、頭がおかしい人を強制的に精神病院の鉄格子付きの部屋に連れて行ってしまう』という内容の都市伝説です。様々なパターンに変化して全国各地に広まっていますが、話の基本となる部分は同じ内容で伝わっています。
地域差がある「黄色い救急車」の色
精神科医・書評家の風野春樹がインターネットによる調査を行ったところ、救急車の色には地域差があることが分かりました。国内分布図を見ると「黄色」の比率が高く、特に関東や北海道では「黄色」での認知度が高いです。その他の地域では、「黄色」と「緑色」が混在しており、九州の一部では「緑色」の認知度が高くなっています。
一般的には「黄色」か「緑色」で認知されており、黄色は「イエロー・ピーポー」、緑色は「グリーン・ピーポー」と呼ぶこともあります。「青色」や「紫色」の話を聞いた報告もあり、茨城県では「黄色」と「緑色」に加え、「青色」が混在しています。「紫色」は、今のところ東日本からの報告に限られています。
通報するとお金がもらえる?
『黄色い救急車と関連のある組織に、頭がおかしい人の所在を通報すると、数千円のお金をもらえる』という付随する話も全国各地から報告されています。119番通報しても普通の「白色の救急車」しか来ないので、『特定の周波数の無線で呼ぶ』という話もありますが、無線の周波数は所属ごとに違うため、無線での通報は出来ないでしょう。
「黄色い救急車」はあくまで都市伝説上の存在
この噂は、まるで本当にあるものの様に、子どもの間で広まりました。話の内容の性質上、オカルト関係の本に載ることが少なく、都市伝説だったことが知れ渡る機会を得られないまま、伝え続けられているのです。
救急車の色は法令で決まっている
日本国内では、「消防自動車は朱色」「その他の緊急自動車は白色」「自衛隊や警察などの緊急自動車は白色以外でもよい」と、『道路運送車両法』という法令で決まっています。救急車は「その他」の部類に入るため、「白色以外の救急車」は法令の違反になります。黄色に塗装されている時点で、救急車とは言えないのです。
精神科関係者の多くも見たことがない
『昔からある近隣の精神病院が持っている専用の救急車』という説や、『一般の患者と精神病の患者を区別するために黄色に塗装されている』という説などがありますが、現実では、精神病の患者も「白色の救急車」で搬送されますので、多くの精神科関係者も「黄色い救急車」を見たことがないのです。
白色の救急車の『回転灯が「黄色」』『ラインやマークが「黄色」』という説もあります。車両は白色と決まっていますが、デザインは自由なので、「黄色」のシンボルが入った、精神病院の専用救急車が存在した可能性は高く、話が伝わる過程で「全体が黄色」に変化したとも推察できます。
病院の一般車両である可能性
救急車に限定すると、「黄色の救急車は存在しない」という結論になりますが、「精神病院が所有する一般車両」の場合、色の制限はありません。赤色灯やサイレンを使用した緊急走行は許可されていませんが、精神病院の名前が入った黄色の一般車両を目撃し、噂を真実だと思い込んだ可能性は高いといえます。
病院所有の患者搬送車は、その病院に所属している職員が乗車しており、一般車両の部類に入るので、赤色灯やサイレンは付いていませんが、救急車に非常に似た存在だといえます。現在では白色が圧倒的に多いのですが、過去には、精神病院が所有する黄色の患者搬送車が存在した可能性があります。
民間の患者搬送サービス車両の可能性
患者搬送サービス車両とは、緊急性が低く、救急医療を必要としない患者を搬送するための車両です。一般車両(福祉用車両)の部類に入るので、色の制限がなく、赤色灯やサイレンは付いていません。民間業者の職員が精神病患者を黄色の車両に乗せる場面に遭遇し、噂は本当だと勘違いした可能性があります。
この車両は、福祉タクシーや介護タクシーと呼ばれるもので、介護料が上乗せされますが、誰でも通常のタクシーと同じように利用することが可能です。「民間救急車」と称し、救急車と錯覚させるような宣伝を行っている一部の民間業者も存在しますが、救急医療も出来ず、受け入れを要請する回線も付いていません。
一部は事実
1960年頃の精神病院は、窓に鉄格子が付いているなど、「治療」よりも「収容」という傾向が強かった時代です。患者が暴れるために家族が病院へ連れていけない場合には、「医者が往診に行き、取り押さえて鎮静剤で眠らせた後、車で病院に搬送し入院させる」という対応をすることも多かったといわれています。
最近では、患者移送サービスがある警備会社の連絡先を伝え、「警備員が患者を取り押さえ、警備会社の車で病院に連れていく」という対応も多くなりました。噂には、『精神病患者の元には救急車とも言えない変わった車が来て、無理やり精神病院へ連れていき、閉鎖された部屋に入れてしまう』という事実が含まれているのです。
「黄色い救急車」の都市伝説はなぜ生まれたのか検証!
「黄色い救急車」は怖い話として語られるのではなく、「茶化すための言葉」として子どもたちに使われることで、全国各地に知れ渡りました。他の都市伝説と同様に、どのようにして生まれたかは分かっていません。この噂の生まれた経緯について、多数の報告をもとに4つの仮説を検証します。
都市伝説は約50年前から存在
日本で最初の救急車が1931年に配備され、1963年には、119番で救急車を呼べるようになったため、救急車は、1960年頃に全国的に普及したと考えられています。同時期の精神科は「収容」という傾向が強い劣悪な環境でした。この2つが結びつき、「黄色い救急車」という話が作られ、全国各地に知れ渡ったと推察できます。
この噂は、救急車の普及と共に徐々に知れ渡っていき、時間をかけて人々の間に定着したと考えられています。今から約50年ほど前の1970年代半ばには、架空の話としてではなく、事実に近い形で存在していたという情報があります。
仮説①映画の描写
1962年公開の日本の映画「危いことなら銭になる」には、主人公が黄色(辛子色)のバンタイプの車から虚偽の放送を流すシーンがあります。虚偽の放送の内容は、「自分を精神科の職員だと偽り、患者の逃走があったため、周囲に注意を促す」というものでした。同映画の上映以降に噂が広まったという仮説です。
主人公が放送を流した黄色(辛子色)の車は、大きな広告が付いているため救急車には見えないことや、重要ではないシーンなため印象深くはないことから、この映画が噂の元になっている可能性は低いと考えられています。その他では、1975年のアメリカの映画「カッコーの巣の上で」に、黄色の患者搬送車(精神閉鎖病棟用)が登場しています。
仮説②「キチガイ」の隠語から
「キチガイ」の隠語から、「キ印」となり、「黄」に変化したために、重度の精神病患者を迎えに来る救急車の色は「黄色」だという仮説です。この仮説は単純で子どもでも分かり易いために、大半の人がこの仮説を信じていました。
仮説③ドクターイエローから
黄色の新幹線「ドクター・イエロー」は、新幹線の線路の検査などを行う事業用車両です。1964年の東海道新幹線開業と同時に使われはじめ、「ドクター・イエロー」の愛称が使われ始めたのはさらに後からです。噂が広まった時期が1960年頃だとすると、「ドクター・イエロー」の認知の方が後だということになります。
ドクター・イエローは、「夜の検査作業時も目立つように」「お客様が間違えて乗車しないように」という理由で黄色に塗装されています。作業の時刻や区間の詳細が公表されず、いつ見られるのかが不明なため、『見ると幸せが訪れる』という都市伝説があります。恐れられる対象ではなく、人々から愛されている人気の高い車両です。
仮説④道路パトロールカーから
高速道路や一般道を走る道路パトロールカーは、道路の管理を行う車両です。道路交通法によって、「車両はメインは黄色の塗装」「水平に白のラインを施す」「回転灯は黄色」と決まっており、この基準を守っている車両のみが、道路交通法の一部の規定から除外された業務を行うことができます。