「象の足」を見たら即死?チェルノブイリ原発事故・負の産物の現在に迫る

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2018年4月に、ある心動かされた英国の写真家が、ウクライナの都市スラヴィティチを訪れ、現在は老後を過ごしているリクビダ-トルの生き残りたちを写真に収めました。そして、そのポートレートの数々は、「リクビダートルたち」という忘れがたい作品となりました。

見たら死ぬ「象の足」を撮影した人たちの現在

出典:PhotoAC

このように近づいたら非常に危険な「像の足」ですが、それでも、この悲劇を二度と繰り返さないという教訓を後世に伝えねばという使命感から、決死の覚悟でその撮影に挑んだ二人のカメラマンを紹介します。

「見たら即死?」というタイトル表現は、「物の例え」でやや極端かと思いますが、彼らの内一人はすぐ他界し、もう一人も生存するも極度の障害を患っていることをみれば、的を射た表現と思えます。

象の足撮影者①ウラジミール・シュフチェンコ

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「チェルノブイリ・クライシス: 史上最悪の原発事故」というドキュメンタリー映画を撮った監督です。彼は撮影中に「急性放射線障害」で他界しました。又一緒に撮影していた作業スタッフ2名も、同じ障害で亡くなってしまったそうです。

象の足撮影者②セルゲイ・コシュロフ

出典:PhotoAC

彼は、事故後3年経過して撮影を開始しました、一時退避都市スラブチチに住みながら、毎週事故現場に通い続けています。僅か二秒で、規定の被ばく量を超えてしまう原子炉建屋内に入り、写真や動画を撮影し続けています。

しかし今では多くの障害に蝕まれボロボロの体になってしまったとのことです。

「象の足」のあるチェルノブイリの現在

出典:PhotoAC

事故後、「死の街」と呼ばれたチェルノブイリも、30年が経ちましたが、現在は一体どうなっているのでしょうか?2010年12月より、ウクライナ政府は正式に、それまで立ち入り禁止としていた、原子力発電所付近への立ち入りを許可しました。

侵入許可区域でも厳しい規則がある

出典:PhotoAC

チェルノブイリ原発から30Kmほど離れたところに検問所があります。その内側は、立ち入り禁止区域となっていましたが、ウクライナ政府に事前申請しておきパスポートを見せれば通過できるようになっています。

但し、色々と行動制約事項があります。例えば、「建物や植物に触れない」とか「地面に直接カメラなどを置かない」に「地面に直に座らない」などです。これらは、放射性物質が人やカメラ等に付着して圏外に拡散するのを防ぐためのル-ルです。

チェルノブイリ原発事故ツアーも開催している

出典:PhotoAC

無人となった現地一帯が、野生動物の宝庫となっていることと相俟って、見学ツアーが催行されています。見学者は、2015年時点で1万7000人であったと言われ、年々その数は増えているそうです。

ツア-の入場料は1日160ドルで、米フォーブス誌が「世界で最もユニークな観光地」にも選んだことも人気の理由です。4号機付近には、事故後20年目に作られた記念碑もあり、よくその前で笑顔の記念撮影がされますが、複雑な気分にさせられます。

2019年現在も健康被害に苦しんでいる人はいる

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この原発事故の被災者は、汚染地域に引き続き居住している人も含め、約700万人とも言われてます。この汚染区域の子供や若年層の中で、甲状腺がんや白血病の発症率が増えていることが懸念されています。

例えば、原発から70Km離れたナロジチ地区の生徒407人の健康調査では、「免疫が弱い」や「時々気を失う」に「心臓が悪い」など全員が何らかの健康被害を受けているとの結果でした。

 

福島原発にも象の足がある可能性がある

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2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震による津波の影響により、福島第一原子力発電所で、メルトダウンなど一連の放射性物質の放出を伴った原子力事故が起きました。

当時、1〜3号機の各原子炉は運転中でしたが、地震で自動停止します。しかし地震による全電源喪失に至り、原子炉内部等への注水不可能から、核燃料の冷却ができず、自らの熱で溶解する事態に至りました。

チェルノブイリム原発事故との比較

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INES評価では、どちらも最悪の「レベル7」と同等レベルの事故と評価され、事故パタ-ンも外部電源喪失とメルトダウンを起こした点で類似しています。

よく「福島原発事故はチェルノブイリより酷い」といった噂も耳にしますがどうなのでしょうか? この問題は、「何を比較するのか」によって答えは様々となりますので注意が必要です。

人の放射線被爆状況では

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原発内被爆で、急性放射線障害になった人は、チェルノブイリが134名に対して、福島はゼロ。又、事故後処理作業従事者では、チェルノブイリで24万人の被ばく線量が平均100ミリシーベルトで、福島は該当者なし。

又、周辺住民では、チェルノブイリでは高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人が10~20ミリシーベルトの被ばく線量と言われている。小児の甲状腺がんで、15名が亡くなっている。一方、福島周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下である。

大気中への放出放射線量と避難民数

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放射性元素種類が多く比較が難しいが、ザックリ、福島はチェルノブイリの1/10と言われています。チェルノブイリが約15万人で福島は約18万人とほぼ同じと言えます。又、汚染地域の広さも福島はチェルノブイリの1/10と言えます。

放射性物質密閉策や避難民対策の考え方

チェルノブイリでは7か月後には石棺を構築し、放射性物質の漏えいを防止しましたが、福島では、現在でも大気中やあるいは地下水を通じて海中に放射性物質を放出し続けています。

チェルノブイリ周辺国では事故5年後に「チェルノブイリ法」を制定し、厳しい基準で住民保護に努め、原則、避難地域に復帰させない方針をとっています。一方、日本政府は、年間20ミリシーベルト基準で住民帰還を強力に促しています。

福島第一原発2号機に象の足らしきものが見つかった

出典:PhotoAC

2号機の格納容器の内部をカメラで確認する調査が2017年1月30日に行われました。その結果、圧力容器の真下の作業用の床に、黒い堆積物が見つかりました。

この物体は、原子炉事故によって溶け落ちた核燃料が、コンクリートや金属と混ざり合い、冷えて固まった所謂「燃料デブリ」と呼ばれるものと思われました。チェルノブイリ原発で見つかった「像の足」と同じものと思われます。

この象の足に近づくと5分程度で命を落とす

2号機の格納容器内の放射線量は、2012年3月の調査で、毎時73シーベルトを観測しました。これはチェルノブイリ原発4号炉の観測値とほぼ同じレベルで、人間なら5分46秒で死亡する値です。

2021年に福島原発の象の足を取り出す計画も?

出典:PhotoAC

東電の工程表によると、「燃料デブリ」取り出し方法を2018年度上半期までに確定し、2021年に取り出しを開始する予定となっていました。ただ、ロボット調査も1年以上遅れており、工程表通りに作業を進めるのは難しいとの見方も出ています。

尚、日本国内で起きた他の大きな原子力発電事故に関心のある方はこちらもご覧ください。

自然界への影響は?

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原発事故で約30万人が避難したあとには広大な立入禁止区域が残されました。当初そこでは動植物の生命が奪われ、生き残った生物も汚染の病にむしばまれていると考えられてきました。

しかし最近になり、この見方を覆す逆の研究結果が示されて注目を集めています。一体、チェルノブイリ周辺で何が起きているのでしょうか。

動物の楽園誕生?

この広大な立入禁止区域は、3200平方Kmにも及ぶが、人類生存に壊滅的打撃を被った後の世界がどうなるかを示す生体実験場になっていました。

最新の研究では、植物が再び育ち、動物の生態系が事故以前よりも多様性を増しているという報告がなされたのです。勿論人為的に自然を取り戻す取り組みが行われたわけではありません。人間がいなくなっただけのことです。

放射性ヨウ素の影響

出典:PhotoAC

この疑問に解決を与える鍵の一つは「放射性ヨウ素」の問題です。これは浴びれば将来ガンなどの甲状腺疾患を発症するリスクが高まる放射性物質です。実際、当時の作業員は現在、白内障や白血病にガンなどの症例が多数確認されています。

しかし、この「放射性ヨウ素131」は半減期がとても短いので、その場に長くとどまることがありません。事故から数週間で消えてしまいます。禁止区域の動植物は、これには晒されずに済み発症もしないと考えられるのです。

赤い森の現状

出典:PhotoAC

原発の10km圏内にあった松林は、大量の放射性降下物を浴びて枯死し、赤茶色に見えるため「赤い森」と呼ばれる地域があります。この辺りは、世界で最も汚染された地域の一つといわれています。

この地域の動植物にはどのような影響をもたらしたのでしょうか? 鳥類や昆虫などの無脊椎動物に加え、大型の哺乳類についても、調査の結果、生息数が減少していることが分かっています。更に突然変異や奇形の確率も高いことが分かっています。

正反対の調査結果 違いは?

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放射線による死亡あるいは発症サイクルと生命サイクルの違いで説明できるかもしれません。つまり多くの動物は生後1カ月内に命を落とすし、成体になっても数年の命であることから、放射線に殺される前にもともと死んでしまうということです。

更に、生物群の中で10パーセント程度が何らかの影響を受け死亡するとしても、ほとんどの場合、生息数が減少するには至らないとの仮説も存在します。但し問題は、死んだり寿命が短くならないにしても放射線による何らかの病に侵されている懸念は拭えないということです。

衰えを知らない象の足…今後の原発事故ゼロを願う

出典:PhotoAC

チェルノブイリにしろ福島原発にしろ、そこで誕生した「像の足」の放射能の影響が消滅するには10万年かかると言います。残念ながら今の人類の英知や技術力では「取り返しがつかない」ことを意味します。

チェルノブイリでは、約700万人の健康と生活に悪影響を与えました。広さで言えば、半径100Km範囲に広がっています。更に直接放射線被爆を受けていなくても何世代も後の子供にまで影響が出る怖さがあります。二度とこのような悲惨な事故を起こさないよう、人類として肝に命じるべきです。

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