リクルート事件とは?戦後最大の疑獄事件の真相とは?

これに対してリクルート事件は、スケールが大きいとはいえ、影響はあくまでも日本国内の政財界にとどまりました。全体の規模で比較すると、ロッキード事件はリクルート事件に比べ物にならないほど、大規模な事件だったのです。

賄賂の種類が異なる

出典:PhotoAC

リクルート事件とロッキード事件のもうひとつの大きな違いは、贈った賄賂の種類が異なる、ということです。リクルート事件では未公開株を贈るというやや風変わり(?)な方法をとったのに対して、ロッキード事件では現金を賄賂として贈るという、ごく当たり前の方法で引き起こされた事件でした。

ちなみにロッキード事件で賄賂として使われたの金額の総計は約20億万円で、そのうち、田中元首相に賄賂として贈られたのが5億円でした。これに対して、リクルート事件では、賄賂として使われた未公開株を公開後売却した利益は、合計約6億円に達したそうです。

フィクサーの暗躍

出典:PhotoAC

ロッキード事件ではフィクサー(黒幕)の活躍がありました。児玉誉士夫(こだま としお)氏という右翼の活動家です。政界に絶大な影響力を持つと同時に裏社会にも通じていて、この事件の際はロッキード社の秘密の代理人として働きました。1960年(昭和35年)に行われた児玉誉士夫氏の生前葬では、大物の政治家が続々と焼香したそうです。

一方リクルート事件では、フィクサーの役割を果たした人間の存在は確認されていません。しかしリクルート事件では関係する大物の政治家がすべて逮捕と起訴を免れています。このことから「フィクサーの役割を果たした謎の人物」が事件の裏で活動していたことを、完全に否定することも、できません。

関係者の不審死の発生は共通

MPMPix / Pixabay

ここでひとつだけ共通点を述べておきます。リクルート事件でもロッキード事件でも、事件関係者の周辺人物の疑わしい死亡事件があった、ということです。リクルート事件では竹下首相(当時)の秘書が疑わしい自殺を遂げたことは既に述べました。

ロッキード事件では2名です。まずフィクサー児玉誉士夫氏の通訳であった福田太郎氏が1976年(昭和51年)2月4日、続いて田中角栄元総理の運転手の笠原正則氏が同じ年の8月2日に急死しました。立て続けに関係者が亡くなったので「闇の力の手で抹殺されてしまった」という説が流れたのも、リクルート事件と同じです。

現職議員の逮捕

出典:PhotoAC

再びリクルート事件とロッキード事件で異なる点に戻ります。どのような人間が逮捕されたか、ということです。リクルート事件では関係した政治家の人数のがとても多いのに比べて実際に逮捕・起訴されたのはごくわずかで、しかも「超大物」といわれる政治家に関しては、ほとんどがおとがめなし、つまり不起訴処分でした。

しかしロッキード事件は、田中角栄という大物の政治家が他の2名とともに1976年(昭和61年)に逮捕された、という点が違います。田中元首相は1983(昭和58)年には一審で懲役4年追徴金5億円の判決を受けて控訴、1987年(昭和62年)には控訴棄却で上告します。上告審は1993年(平成5年)に本人の死亡で打ち切られます。

リクルート事件には2019年東池袋暴走事件の犯人が関与?

2019年(平成31年)4月19日に東京都豊島区東池袋で、大変に痛ましい交通事故が起こりました。東京メトロ東池袋駅の近くの交差点で、87歳の男性が運転する乗用車が暴走して、交差点内の横断歩道に突っ込み、横断歩道を横断中だった母親と幼い娘をひき殺し、10人(運転していた男性とその妻を含む)を負傷させたというものです。

東池袋暴走で多くの人命を奪った飯塚幸三

母親と幼い娘の命を奪った87歳の男性は飯塚幸三という名前で、旧通産省工業技術院の元院長という、元エリート公務員であることがわかりました。ところが信じられないことにこの飯塚元院長は、リクルート事件と深い関係があったという説が広まっています。飯塚元院長はリクルート事件の際​、国会で何度も答弁していたらしいのです。

当時の記録を調べてみると、飯塚元院長と同姓同名の旧通産省の技術院長が、国会で少なくとも3回答弁に立ったことがわかります。ただし彼がリクルート事件に関係したかどうかはわかりません。関係部門の責任者として国会に呼ばれて証言しただけ、という可能性も高いです。彼が東池袋暴走事件の犯人と同一人物だとしても、です。

政治家の圧力が関与?

出典:PhotoAC

TwitterなどのSNSの世界では、この飯塚元院長がリクルート事件の隠された真実を知る人間なので、当時事件と関係のあった大物政治家のだれかの力で守られているのではないか?という憶測が飛び交いました。2名が死亡、10名が負傷という大事故を起こしたにもかかわらず、いつまで経っても警察に逮捕されないからです。

この仮説は興味深いものですが、真実味は薄いと判断せざるを得ません。江副浩正氏をはじめ、当時の大物政治家を含むほとんどの関係者が、すでに他界しているからです。むしろこの説と同時に飛び交っていた「飯塚幸三はずば抜けたエリート(上級国民)なので、警察も手が出せない」という説の方に、現在の格差社会の闇を感じます。

飯塚幸三「上級国民」説

Tama66 / Pixabay

飯塚元院長が「上級国民」と呼ばれるようになったのは、死者を出した大事故を起こした人物が、いつまでたっても警察に逮捕されないことからです。そのためマスコミも彼を「飯塚容疑者」とは呼ばず、「飯塚元院長」「飯塚元職員」「飯塚氏」「飯塚さん」などと呼び続けています。

これに対して同時期(4月21日)に兵庫県神戸市で死亡事故を起こした神戸市営バスの大野二巳雄(おおの ふみお)運転手は現行犯で逮捕されました。マスコミも「大野容疑者」と名前に「容疑者」を付けて呼んでいます。この事実も「飯塚幸三上級国民説」がインターネットの世界で広がるのに、一層拍車をかけています。

逮捕されない理由

3005398 / Pixabay

飯塚元院長が逮捕されないことについて、ある弁護士は「大野運転手は軽いケガだけだったため現場から逃亡の恐れがあったが、飯塚元院長はケガが重くて入院中であったため逃亡をしたり証拠を隠す恐れはないと、警察が判断したのだろう」と推測しています。

今後、飯塚元院長が逮捕されなかったとしても、これだけの大事故を引き起こしたのだから、いずれ起訴されることになるでしょう。警視庁は飯塚元院長について、過失致死傷の容疑での立件に向けて調査中だそうです。飯塚元院長の呼称が「飯塚被告」に変わる日は、いつか、確実にやって来るはずです。

飯塚氏が逮捕されない法的根拠

succo / Pixabay

逮捕は刑罰ではありません。捜査の上で必要な場合のみ行います。逮捕されるとその人は拘置所や留置所に拘禁されますが、入院中なら拘禁できません。しかも逮捕してから48時間以内に送検(検察庁へ本人や証拠を送ること)しないといけないし、原則10日以内(延長できても20日以内)に、起訴するか不起訴にするかを決める必要があります。

飯塚元院長がケガで入院中のため取り調べが不可能なら、たとえ逮捕しても時間がむだに過ぎて、あっという間に10日(あるいは20日)の期限が過ぎてしまいます。任意で事情聴取を行い続ける方が捜査に有利なケースもあるのです。飯塚元院長が高齢で逃亡の恐れがないことも、逮捕を見送った理由のひとつです。

政治とカネの問題には根深い闇が

出典:PhotoAC

リクルート事件は江副浩正氏をはじめとする12人の逮捕と起訴で終わりました。しかし未公開株を受け取ったとされる大半の関係者は不起訴、つまりおとがめなしでした。特に超大物といわれる政治家達は、リクルート事件の影響などなかったかのように、その後も活動を続け、確固とした政治キャリアを築き続けました。

この問題は、現在の日本人の政治に対する態度にも、大きな影響を与えています。東池袋暴走事件の加害者に対する憶測にも、その影響が現れています。政治とお金の問題はもっと注目しなくてはならない問題です。この種の問題は今後も形を変えて発生するでしょう。次の事件ではビットコインが贈収賄に使われるのでしょうか?

ロッキード事件に関する記事はこちら

佐川急便事件に関する記事はこちら