持続時間から見ても、ストックホルム症候群は治療をしなければ10年以上の長期間に渡り続いてしまうケースが見られますが、吊り橋効果はもっと短い、一時的なものです。
これらのことから、2つの現象は似て非なるものだと言えます。
日常にもある!吊り橋効果
日常的なシーンにおける吊り橋効果とは、具体的にどのようなものでしょうか?
例えば、デートスポットとして遊園地や映画館が人気なのは、ジェットコースターやお化け屋敷、ホラー映画などで吊り橋効果を得られるからだという見方もあります。
また部活内や社内で恋愛が多いのは、運動や、顧問や上司に共に叱られたりすることで心拍数が上がることが原因だとも考えられます。
このように、吊り橋効果とはストックホルム症候群に比べ、より気軽に日常に入り込んでいるものなのです。
スポーツ界のパワハラもストックホルム症候群と言われている
部活内、またスポーツ界では、度々顧問やコーチのパワハラが問題となります。
しかし部員や選手がパワハラを働いた相手を庇い、そこから抜けることを選ばない場合が多々見られ、これもストックホルム症候群の一種だと言われているのです。
酷い仕打ちを受けても、指導者の熱意や思いやりを味わってしまうと「この人は自分を愛してくれているのかもしれない」「この人に付いていって結果を出してあげたい」という思いに囚われてしまうことがあります。
そのため、同級生や保護者が指導者を非難、そこから引き離そうとしても、本人がそれを頑なに拒否するケースも見られます。
日本体操協会パワハラ問題もストックホルム症候群?
2018年8月、女子体操の宮川紗江選手が会見を開き、コーチからの厳しい指導について、自らの考えを世間へ発信しました。
しかしそれは、パワハラとも取れるコーチの指導を容認し、コーチを処分しようとする本部長らを告発するものだったのです。
宮川選手はストックホルム症候群?
宮川選手は、まずコーチに関し「叩かれたり髪を引っ張られたが、全ては自分のための指導だった」と説明。その後、コーチの処分などについて圧力をかけたとして、日本体操協会強化本部長らを批判、告発したのです。
TVではコーチが宮川選手に体罰を働くビデオも流され、世論は「体罰は行き過ぎだ」と感じましたが、宮川選手はコーチと離れることに関しこのように発言しています。
私は速見コーチと引き離されてしまうんだと恐怖と苦痛で全てがおかしくなってしまいそうだった(引用:AERA dot.)
本部長らの言動も非常に威圧的なものでしたが、宮川選手のこの発言、また、第三者の介入があっても頑なにコーチから離れようとしない様子には「コーチに入れ込み過ぎではないか」という心配の声が上がります
そこから「宮川選手はストックホルム症候群ではないのか?」と疑問も飛び出しました。
本部長らのパワハラは認められない結果に
宮川選手の弁護士も「ストックホルム症候群の恐れも否定できない」と語り「これを認めると、今後被害者さえ問題ないと言えば体罰が成立してしまうことになる。難しい問題だ」と話しました。
結果、強化本部長らのパワハラは第三者委員会により不認定となっています。
スポーツ界における体罰を始めとしたパワハラは、選手の結果が目に見えて出ることから未だ深刻に問題視されておらず、むしろ肯定的に捉えられていることが多いのです。
また、選手を応援する家族が指導者のパワハラを容認、むしろ擁護する場合もあり、その構造は非常に複雑なものとなっています。
ストックホルム症候群を題材にした作品
ストックホルム症候群は、その不可解さ、特徴的な点からメディア化も多くされています。ここでは、ストックホルム症候群を扱った映画を2作、ご案内します。
狼たちの午後
こちらの作品は、実際にあった事件を元にしたもの。ニューヨークの銀行に3人の男が強盗に入りますが、男達の犯行は次々と失敗。
そんなドジな強盗達に人質達も徐々に心を開き、そこにストックホルム症候群特有のおかしな一体感が生まれます。ライフルをおもちゃにして楽しむ女性、家に「私は大丈夫」と連絡する女性…。
事件はTVで生中継されたため、犯人達は視聴者からも人気者となってしまいます。彼らを支持する者も現れ、民衆は犯人の名前を連呼し、お祭りのような大騒ぎ。
強盗を犯したにも関わらず、犯人達のおちゃめな面を目の当たりにしそこに好意を持ってしまう。典型的なストックホルム症候群を描いた作品となっています。
完全なる飼育
こちらは、前述した「籠の鳥事件」をモチーフに、ストックホルム症候群を盛り込み作られた作品です。
女子高生が河川敷をランニングしていると突然誘拐されるという導入で、その後の犯人が紳士的だったことから、女子高生も犯人に惹かれていきます。
犯人の悲痛な過去を聞かされたり、「窓から逃げる」と騒ぐと「そんなことをしたら危ないよ」などと心配されたりしているうちに、女子高生は男と恋愛関係へ発展します。
第三者が男の部屋を訪れた時も、助けを求めることはせず隠れる少女。2人で温泉旅行へ行った際、少女は宿から逃走し駅まで辿り着きますが、男に未練を感じ電車に乗ることが出来ませんでした。
最終的に全てはバレ、男は逮捕されます。しかし少女は「楽しく同棲していただけ」と話し、男は情状酌量。懲役2年となりました。
少女が再び河川敷をランニングするラストシーンでは、再びさらわれることを待っている少女の気持ちが伺えます。
事件を元にしただけあり、複雑な少女の胸の内、そしてストックホルム症候群を緻密に描いた作品となりました。