スコットランド、エディンバラ大学のニジマスの実験では、被検体の頭部の周辺だけでも、最低58の痛点があると報告されています。また、その中でも「侵害受容器」であるとされるものが22個あるとされています。この侵害受容器とは、身体を脅かすような侵害的脅威に対して特異に反応する末梢神経のことを示しています。
ポリモーダル受容器の発見
同研究によってもたらされた結果の中には「ポリモーダル受容器」という感覚器官の発見もふくまれています。この感覚器官は、侵害受容器の一種で。、人間や鳥類、爬虫類にも備わっている器官です。細胞が破壊された際の刺激を電気的信号に変換して脳に伝える役割を果たします。
まだまだ謎に包まれた魚の痛覚事情
近年でこそ様々な要素が解き明かされてきている魚の痛覚に関する問題。しかしながら、これまでの研究において示されている事実だけでは、「魚が人間と同様の痛み」を感じていることを証明するのは難しいでしょう。
生理学的に、人間と同等の「痛覚」を知覚する構造があることは間違いないのでしょうが、それが人間の感じる「痛み」と同様の性質のものなのかという点に関してはまだまだ研究の余地がありそうです。
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今まで痛覚が無い説だったため、日本での魚の扱いが酷いと話題に
魚に人間と同様に「痛覚」を感じる神経が備わっているというという事実は、「魚に対する人間の態度を改めなくてはならないのではないか」という新たな問題をもたらします。魚を釣りあげて新鮮なうちに食するということが文化として根付いている日本には、特にそうしたバイアスが向けられるようです。
魚の生食が古くからおこなわれている日本では、魚は鮮度が命。鮮度の良さを求めて発展した独自の食文化が、現在の世論においては批判の声を浴びることもあります。
海外の人がびっくり!魚の踊り食い文化
現在でこそ日本の寿司文化は海外でも受け入れられているものの、もともと生の魚を食べるという文化は、世界的に受け入れられるものではありませんでした。そのため、当然生魚を食べるということに抵抗を覚える海外の方はいまだに多い傾向にあります。
その中で特に海外の人に理解されがたい日本の食文化として代表的なのが、シラウオやタコなどの「踊り食い」です。まさに「鮮度が命」の日本の食文化ならではの、最も生きがいい状態で魚介類を食するための方法です。
しかしながら、この際にシラウオやタコは適正に〆られることなく、人間の歯ですりつぶされる痛みや胃液に徐々に溶かされていく感覚、さらにはそれらによってもたらされる恐怖を感じているかもしれないのです。
活け造りなどの魚の調理法もひどいと話題に
中国の呼叫魚同様に物議をかもした動画の一つに魚の「骨泳がし」があげられます。どういう動画かというと、職人さんの手によって三枚に下ろされた魚(頭に胴体部分の骨と尾びれがついている状態)を水槽に戻しいれると、何事もなかったかのように泳ぎだすというものです。
これは、職人さんの卓越した包丁技術によって、魚が捌かれたことに気づかずに泳ぎだすということを伝える動画ですが、見る人によっては「かわいそう」という感想を抱いてしまうのもわかります。
活け造りなども魚が生きた状態で捌かれてで供されるため、新鮮さを重視する日本人にとっては好ましいプレゼンテーションです。しかしながら、そうした文化に慣れていない海外の人から見ると、魚を生きたまま解体する非常に「残酷」な行為として映るのでしょう。
実はあまりよく知らない?魚の正しい〆方を知りたい人はこちら
これからの研究次第で魚の扱いが変わるかも!?
これまでご紹介してきた通り、近年の研究で魚の痛覚に関する様々なことが明らかになってきています。現段階では魚の感じている痛みに関する決定的な結果が得られていないため、少なくとも日本では魚の愛護に関する決まり事などはまだ明確に定まっていないものの、海外の一部の国や地域では魚の愛護活動が広まっているところもあります。
今後の研究の進み方次第では、ますますそうした動きが加速していく可能性もあり、私たちの魚に対する姿勢を改める必要も生まれてくるかもしれません。
スポーツフィッシングの廃止!虐待になる可能性
本来釣りとは人間が水中にいる魚を食料にすることを目的として捕獲するためのアプローチの一つです。しかしながら、魚を食する目的ではなくいわば「娯楽」の一種として釣る「スポーツフィッシング」は、アングラーと愛護団体との間での議論が絶えないコンテンツの一つです。
キャッチ&リリースのルールにのっとって、「熱いファイトをありがとう。いつかまたどこかの海で、、、」といって一度釣った魚を再び海に放つということは魚愛護の観点からするとどう映るのでしょうか。一度アングラーにつられた魚は、口の中を釣り針にえぐられ、陸に引き上げられたのちにアングラーの手によって針から外されます。
金魚などの魚類を人間が触ると体温の違いが大きいゆえに魚がやけどをするという話もあります。エラ呼吸のために息苦しい思いをしながら激しい熱に苛まれ、口中に深い傷を負いながら海に放たれる魚は果たしてその後ストレスや不自由なく生活を送ることはできるのでしょうか。アングラーと愛護側、両者の議論はまだしばらくは続きそうです。
魚の調理方法が見直される可能性
今後魚愛護の世論が高まるようになれば、魚の調理方法についても見直す必要性が出てきます。魚ではありませんが、世界的にアニマルウェルフェア(動物福祉)を重視しようとする動きが高まっています。
日本が批准しているOIE(国際獣疫事務局)によって定められている「動物福祉規約7.5条 動物のと殺」には、動物福祉に配慮するために、畜産動物のと殺についてどのような方法をとるべきかということが事細かに書かれています。
魚以外の動物に関してはこうした動物の権利を重視する世論が主流となってきており、魚に対してもこうした動きが見られれば、これまで看過されてきた魚の調理方法などについても様々な制約が課せられる可能性もあります。
日本特有の踊り食い文化がなくなる可能性
日本特有の魚の食し方の一つといえば「踊り食い」が思いつくのではないでしょうか。当然のことながら、食する魚の生きの良さを実感できることを最大の魅力としているこうした食し方においては、魚の福祉というものは度外視されています。
魚を適正に〆ることはおろか、そのまま胃の中に滑り込ませるわけですので、調理される場合よりもむしろ苦痛を伴いうる食し方ともいえるでしょう。この食し方については以前から「残酷だ」という意見が数多く寄せられていますが、事実、日本人から見てもそのような感想を抱く人も多いはずですよね。
一方で、日本の文化として根付いているものを安易に否定されることについて快く思っていない人も多いでしょうから、こちらもまた解決に導くのは時間がかかりそうな問題ですね。
エビやタコなど甲殻類や軟体動物にも痛覚があるのか?
いかがでしたでしょうか。これまで魚の痛覚の有無、それによりもたらされる「痛み」の性質についてと、この問題がはらんでいる文化的問題の側面について触れてきました。ここまで読むと、「甲殻類や軟体動物についても同様のことが言えるのではないか?」と考える方も多いのではないでしょうか。この章ではそうした甲殻類・軟体動物についての現段階での見解について述べていきます。
甲殻類・軟体動物の痛覚についても議論されていた!
甲殻類や軟体動物も魚と同様に表情のない生き物ですので、痛みを感じているのかということに関しては普通の人間の認知の範疇にはありません。また、こうした生き物の中には、外的危険要素の存在に際して、自分の体の一部を切断することによって注意をそらそうとする「自切」と呼ばれる行動をとる場合があることからも、「痛覚」という感覚について非常に無頓着なのではないかと思われがちです。
しかし、甲殻類・軟体動物の痛覚の有無についてもすでに研究がなされており、以下のように有意な結果が報告されているものもあります。
甲殻類はヤドカリを使った実験で痛覚が判明した!?
クイーンズ大学ベルファストにおいて実験対象とされたのはヤドカリです。この研究チームは、殻を持っているヤドカリに対してごく微弱な電気ショックを与えるという実験を行いました。少量の電気ショックではヤドカリの反応も小さかったのですが、電気ショックを強くすると、自分の殻を捨ててまでにげていったという結果が報告されています。
軟体動物については今でも不明
イカやタコのような軟体動物については現在でも有意な研究結果は報告されていないようです。ただし、これらは外的脅威に対して「墨を吐く」などの防衛反応を持っていますし、体色を変化させることによってコミュニケーションや意思表示を行っているとされているため、今後の研究によって、痛覚の有無が発見される日も近いかもしれません。
世界各国での魚愛護の動向
最後に、国際的な魚愛護の動向をサラッとご紹介します。日本ではまだまだ主流にはなっていない魚愛護の考え方ですが、諸外国ではすでにその考え方を取り入れているところもあるようです。
OIE
日本も加盟している動物衛生・福祉の向上を目的として設立された国際機関です。アニマルウェルフェアという考え方は哺乳類などの動物にのみ適用されているものと思われがちですが、OIEでは魚の福祉基準の作成を開始しているとされており、哺乳類だけではなく魚もまた福祉・権利が配慮されるべきであるという考えが生まれつつあるようです。
オーストラリア
2017年にロブスターを生きたまま切断して処理していた会社が、「ニューサウスウェールズ州動物虐待防止法」に違反していたとして有罪判決を受けているオーストラリア。実は、食用の動物を苦しませずに殺すことが法律で定められているというのです。ロブスターには痛覚があるという報告をした研究結果に基づいてロブスターの〆め方について法律が制定されたということは世界的に話題となりました。
スイス
2018年1月に、オーストラリアと同様にロブスターを熱湯に投入するというこれまでの調理方法を禁じることが義務付けられました。また、法律において動物を正当な理由なしに傷つけることを禁じているため、スポーツフィッシングのように魚などをキャッチ&リリースするということは禁止されています。
魚の締め方によっても味が違う!〆方の違いはこちらからチェック
今はまだ考え方次第!魚の痛覚を考えた対応も大切
現段階では魚をはじめ、甲殻類や軟体動物を含んだ海産物の「痛み」を人間の認知できる形で定義するというのはまだ難しいようです。しかしながら、「痛点」の有無については、魚だけではなく様々な動物についてその存在を肯定する意見が主流となってきています。
これらの問題から派生するであろう倫理的な諸問題に関する講義はこれからもますます増えていくことになりそうです。しかしながら、日本人がこれまでの魚への接し方を考えなければならない日が来るのもそう遠くないかもしれませんね。