吉展ちゃん事件の全貌|警察がミス?死刑囚・小原保の生い立ちや自白の記録

劇的な顛末をたどったこの事件は、文学、ドラマ、映画など、多くの分野で題材として取り上げられました。とりわけ、ジャーナリストでノンフィクション作家の本田靖春が著した『誘拐』は反響が大きく、後の1979年『戦後最大の誘拐|吉展ちゃん事件』と題したドラマとなり、テレビ朝日にて放送されました。

犯人・小原保役は泉谷しげる

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このドラマにおいて、犯人である小原保の役を演じたのが泉谷しげるです。凶悪ながらも、人間の情や業を孕んだその怪演は、高い評価を集めました。もともとフォークソング歌手だった泉谷さんが現在も活躍中の俳優業で注目されるようになったのは、この作品からであったと言われています。

吉展ちゃん事件を教訓に!特殊事件捜査係(SIT)新設

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吉展ちゃん事件は、日本の司法、治安維持の分野において、大きな課題を浮き彫りにさせる出来事でした。それ故に、報道協定をはじめとして、この事件を機に改善されたり、新しく取り入れられたものがあります。一つは刑法に身代金目的誘拐罪が加えられたことです。被害者が殺害されていない場合でも、厳罰が与えられます。

二つ目は警察による逆探知が認められうようになったこと。そして、三つ目に上げられるのが、「特殊事件捜査係」通称「SIT」が設置されたことです。

特殊事件捜査係(SIT)とは

吉展ちゃん事件での警察の対応の不備を受けて、1964年4月1日に警視庁捜査一課の第3強行担当班内に新設されました。SITというのは、公式には「Special Investigation Team」の略ということですが、もともとは「捜査」「一課の」「特殊班」の略だったと言われています。

誘拐、ハイジャック、立てこもりなど人質がいる事件において、捜査や犯人逮捕、人質救出を担当する部署です。そのために必要な、特殊な通信技術や、逆探知のノウハウ、交渉術などの技術を有し、機動隊や特殊部隊のように、突入制圧する訓練も積んでいます。

SITの出動した事件

吉展ちゃん事件の二の轍は踏むまいとして設置されたSITや、各都道府県警察の同様の特殊班は、今日まで様々な事件で活躍し、これらを解決に導いてきました。過去にSITが出動した事件のうち、主だったものを紹介します。

町田市立てこもり事件

2007年4月20日、暴力団組員の男が、同じ暴力団に所属する男を拳銃で射殺。その後、現場付近にある自宅のアパートに立てこもったという事件です。男は駆け付けたパトカーに向けて、拳銃を11発も発砲し、現場一帯が騒然となりました。最終的に、警視庁のSITが催涙弾を撃ちつつ突入し、男を逮捕します。

愛知立てこもり事件

こちらは愛知県警のSITが出動した事件です。町田市の事件から1ヶ月も経たない2007年5月17日に起こりました。愛知県愛知郡長久手町(現在の長久手市)で元暴力団員の男が、元妻を人質に民家に立てこもり、拳銃を発砲。警官1人が死亡し、男の妻子と警官1人が負傷します。発生から約29時間後、男が投降して、事件は終息しました。

事件の現場は今どうなっているのか

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日本中が一人の男の子の身を案じ、その死に心を痛めた時から、すでに50年以上の年月が過ぎました。忌まわしい犯罪の現場となった場所は、今はどのような姿になっているのでしょうか。事件の記憶は完全に風化してしまっているのか、はたまた、過去の惨事を今に伝えているのか、その様子を紹介します。

子どもに大人気の公園

かつて、遊んでいた4歳の子どもに誘拐犯の魔の手がかかった現場である入谷南公園は、台東区の運営で現在も同じ場所に存在しています。約3919平方メートルの広さがあり、周辺区域の中では最も大きな公園です。

2013年にリニューアルオープンし、真新しく、キレイに整備された園内には、カラフルで現代的な遊具とバリアフリー施設が設置されています。特に注目されるのが遊具の多さで、長い滑り台や、円形のジャングルジムなど、子どもを楽しませる工夫が施され、近隣住民の人気スポットとなっています。

吉展ちゃんを偲ぶお寺

小原保が吉展ちゃんを殺害し、その亡骸を隠した場所である円通寺は、荒川区南千住に現在も建っています。亡骸が見つかった場所である墓所には、当時数多くの人が被害者の冥福を祈って焼香に訪れました。その場所には「よしのぶ地蔵」が建立され、今でも供養が行われています。

吉展ちゃん事件は世の中の親を震撼させた

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この事件をきっかけとして、子どもの誘拐事件は大きくクローズアップされます。吉展ちゃんの家庭が特別裕福なわけでもなかったことも、全国の子を持つ親に不安を覚えさせました。

もしかしたら、我が子も吉展ちゃんのような被害を受けるかもしれない。そう感じた親たちの間で、いつしか「知らない人にはついていっちゃだめ」という決まり文句が定着します。吉展ちゃん事件という痛ましい出来事は、現代の日本が治安の良い国として知られる社会になる上で、重大な影響を与えたといえます。

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